ただなんとなく生きてます

僕が天に召される日まで、ちまちま書いてみるよ。

立ち尽くして見た景色

こんばんわ。今日もただなんとなく書きます。

 

彼女が言う。

 

『ねぇ?通院すンのにさぁ、原チャ欲しい!』

 

えぇ!?危ないじゃんか!!平気なの??

 

『誰に言ってンの?あんたより運転うまいし』

 

僕は普通二輪だったが、彼女は大型二輪が乗れた。

 

『バスと電車やだぁ。疲れンだもん!』

 

そ、そうか…じゃ、じゃあ…

 

『やったぁ!これが最後のお願いだから!ね?ね?』

 

最後!?縁起悪い。僕より長生きしてよ。

 

『はぃはぃー まだ死んだりしないから』

 

お金に余裕なんか、まったくないが、

 

僕は、お金だけ渡した。

 

今は、こんなに元気そうだが、

 

体内にできてしまった血栓のせいで、

 

間も無く死ぬ…かもしれないという。

 

 

久しぶりのバイクは、原付ではあるが、

 

楽しかったらしい。ちゃっかり、ヘルメットまで

 

僕の金で買いやがったな…

 

大事そうにカバーまでかけていたんだ。

 

 

彼女は、2回だけバイクに乗りました。

 

家族が処分してくれるらしい。

 

僕は、室内の現状復帰をしに行った。

 

もう、全部片付けてあるので

 

あとは2つだけ。

 

ジャパネットで買った変なライトと、

 

ウォシュレットを僕は外した。

 

次の人が暮らすから、最初の状態に…

 

 

ここから搬送されたのか…

 

主の戻る事のできなかった部屋に立ち尽くす。

 

本当にガランとしてしまった。

 

あんなに、緑があったベランダが、

 

灰色一色になるなんて…

 

 

『お金』…この言葉に、僕らは翻弄された。

 

霊安室前のベンチが頭に浮かぶ。

 

この人の娘さんは僕に、

 

『ここ数年、母は寂しそうだった』

 

『これから親子の時間を過ごしたかった…』

 

そんな事を言っていた。

 

 

勝手に頭にセリフが浮かぶ。

『はぃはぃー まだ死んだりしないから』

 

死んでンじゃねぇか…

 

 

ベランダに視線を移す。

 

僕がここに来ていた頃、

 

あの人は、いつも

 

パスタをスズメにあげていた。

 

仲良く引っ張り合い、分け合う。

 

喧嘩のない世界が見えた気がした。

 

 

久しぶりに人の気配を感じたのか、

 

スズメが四羽こっちを見ている。

 

もぅ、パスタはないよ。

 

僕はつぶやいた。