ただなんとなく生きてます

僕が天に召される日まで、ちまちま書いてみるよ。

今週のお題「人生変わった瞬間」

 

高校を出て就職して、その仕事を辞めた。

 

飽きっぽい僕には、まさに正統なルートというのか。

 

時代は就職氷河期

 

僕を採用するところなど、どこにもなくて

 

主流となっていた派遣形態に飛びついた。

 

 

工場勤務となり、ももにポッケのついた作業服に

 

身を包み、作業帽子を目深にかぶる。

 

へへっ。結構かっこいい。ワイシャツとネクタイより

 

僕にはこの方が似合ってたんだろうな。

 

大きな敷地の工場を日々転々として作業にあたる。

 

朝はラジオ体操から始まるんだ。

 

戦後の復興を支えたであろう古い建物もあり、

 

なんだか毎日ウキウキした。

 

一度も休んだことがないし、

 

周りともすぐうちとけたからなのか

 

自称人気者になりました。

 

ある部署に配属された。

 

職人が溢れ、大事な仕事をしている。

 

僕の面倒を見てくれるのは、

 

白髪の角刈り。怖いから敬遠されていた。

 

幸運が重なり、その人と同じ苗字の僕は

 

その人に可愛がられ、息子と呼ばれた。

 

社員になることも決まり、全てが順調だった。

 

 

ここでの仕事は、外国の薬品を使う。

 

危険な物であり、慎重性が問われた。

 

僕には、それが欠けてたんだろうね。

 

忙しさのあまり、それを触るのに

 

保護手袋を外したんだ。

 

 

薬品は体に浸透し、一撃で体質を変えた。

 

その時に限って3液を混合したやつで

 

超強力に人体に作用して、

 

超アレルギー体質になった。

 

夜中になると症状が現れ満足に眠れない。

 

東急ハンズで買った注射器で血を抜いたりした。

 

熱湯に体を入れると緩和して、30分ほど眠れる。

 

僕の部屋は鉄の匂いがしていた。

 

スマホのない時代の夜ふかしって、

 

本当の地獄だったよ。

 

時計の秒針を聞きながら、鳥の鳴く朝を迎える。

 

どんな物でもアレルギーが出る。

 

新聞紙になんか、腕を置けない。

 

文字の形にみみず腫れがで始める。

 

毎日睡眠時間が足りず、ふわふわしていた。

 

仕事で薬品から立ち上る湯気でも反応し

 

顔がむくんだ。みんな僕を心配した。

 

中には『綺麗な手をしてたのに…』と

 

泣く人まで出たよ。

 

みんなに迷惑をかけたくなくて、退職した。

 

 

塞ぎ込んだよ。蚊に刺されても腫れるんだ。

 

寿司を食っても、醤油に反応して唇が腫れる。

 

あまりに塞ぎ込むのを心配した人が、

 

僕を海に連れ出してくれた。

 

久しぶりの海。下手だけど、サーフィンでもしよう。

 

車のカーステレオからは、ポルノグラフィティ

 

ミュージックアワーが流れていたっけ。

 

 

海に着いた。軽い気持ちで海に入ったら、

 

全身が浮腫んでしまった。海水、あるいは日光か。

 

自分の中で何かが弾け飛んだ。

 

何を触ってもアレルギー。

 

僕は終わってしまったんだ。

 

 

森に向かった。

 

入り口でとうもろこしを焼いてる人がいた。

 

買って食いてぇけど、きっとアレルギーだろう。

 

奥に歩みを進め、いろんな物を見た。

 

そろそろいっか。ここにしよう。

 

そう思った時、なんとなく後ろを振り返った。

 

さっきまで入り口でとうもろこしを売っていた人が、

 

そこには立っていて、首を振った。

 

そっか、ついてきてたんだ…

 

 

あの日、それまでの僕は消えたんだと思う。

 

生かされてる意味があるのかと

 

ただなんとなく生きてるよ。

 

だいぶ緩和したけど、今でもアレルギーはある。

 

むくみや、アレルギーのある人の気持ちが

 

わかる人になったかな。

 

健康こそ何よりの宝物だよ。

 

なんて、タバコを吸いながら書くことではないか…